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「え?」
―――そんなこと私が覚えてるわけないじゃない
咲子はそう思って、首をただ横に振った。
『君はね、予定日よりも早く生まれたんだ』
咲子は聞こえてくるその言葉をただ聞いていた。
それこそ、遠くから聞こえる穏やかなメロディーにそっと耳を傾けるようにして。
『だからね、みんな心配していた』
『でもね、君が大きな声で泣いて生まれてきてくれたんだ』
『だからみんな安心したよ、そしてとても喜んだ』
『それこそ花が綻ぶようにみんな笑顔になったんだよ』
咲子自身の記憶にはないけれど、家族たちの笑顔が想像できた。
目の前で起きている不思議なことが、至極当然のことのように思えた。
なぜだかそう思えた。
だから、咲子は微笑んだ――――
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