開戦

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「さっき、引き出しの整理してたら出てきてねぇ。これ、中学校の頃まではこの部屋に置いてたもんねぇ。さすがに高校生になってからは片づけたけど」 「ちょ、ちょっとお母さん!」 私は下でうつぶせになっているお兄ちゃんを蹴ってしまうような勢いで立ちあがり、お母さんからそれを奪い取った。 だけど、時すでに遅し。背中越しでも分かるほど、お兄ちゃんは「それ」を凝視していた。 「それって…俺が留美にあげたやつか?」 お母さんの表情が一気に明るくなる。 「そうそう。留美がピアノのコンテストで入賞したお祝いだって言って、泰くんがお年玉はたいて買ってくれたやつ。高校生になって引き出しにしまう時も大事に箱に入れてしまってたからね?この娘」 さっきまでは先っちょしか顔を出していなかった感情が、ここで一気にあふれ出てきた。 「お母さん!余計なこと言わんといてよ!」 自分でも顔が赤くなっていることが分かるほど、体中が熱くなる。 「はいはい。それじゃあ邪魔者は退散するとしましょ。それじゃあ泰くんごゆっくり」 お母さんは少しだけ含み笑いを浮かべながら部屋を出て行った。そして嵐が去った後に取り残される私たち2人。 時計の針の音がやけにうるさく聞こえるくらいの沈黙の中 「おい留美。どこ行くんだよ」 気がつくと、私はドアを開けて部屋を飛び出していた。背後からお兄ちゃんの声が聞こえたけど、何も返すことができず、ついには家をも飛び出してしまった。
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