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県北部、いわゆる地元では県北(けんぽく)と呼ばれるその地域に、百々が行かなければならない神社があった。
そこの主祭神が、罔象女神なのである。
罔象女神、または弥都波能売神、水波能売命。
今後、その女神から力を借り、時に護ってもらうために、正しく挨拶をして許しを得てくることが、百々に最初に課せられた修行だった。
三年間下宿していた佐多家から戻ってきたその日に、百々は一子にどの女神様にお願いすることにしたのか尋ねられた。
そこで百々が罔象女神の名を挙げると、一子は「ちょっと待っていらっしゃいな。」と立ち上がり、自分の文机の横の棚の引き出しを開けた。
そこから、何やら書きつけのようなものを出してしばらく見ていたが、やがて顔をあげると百々にある神社の名を告げたのである。
それが、今回百々が行く、罔象女神が主祭神の神社だ。
「百々ちゃんはまだいいですよ。私なんかは、京都までわざわざ行ってきたのよ。新幹線なんてない時代でしたから、大変でした。」
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