12604人が本棚に入れています
本棚に追加
「こちら、あまり大きくないでしょう?」
拜殿の前まで来た一子は、周囲をキョロキョロと見回す晴樹にいたずらっぽく言った。
「ばあちゃん、神様の前で失礼だよな。」
「ほほほ、神様がどうのと言っているわけではありませんよ。でもね、こちら、きちんとした神社なのよ。」
こちら、伊勢神宮と関わりのある神社ですものーー
伊勢神宮の名が出たところをみると、それがこの神社を時間外に参拝しに来た理由なのだろう。
「さあ、お詣りいたしましょう。特にあなた、晴樹。一度手を合わせたら、私がいいと言うまで目を開けても手を離してもいけませんよ。」
「それ、百々に必要なんだよな。」
「ええ、とても。」
ならいいやと細かいことを聞かずに、晴樹は二度お辞儀をし、二度手を鳴らし、そのまま目を閉じた。
迷いのないその行動に、一子の口元に微笑みが浮かぶ。
本当によい子を残していってくれたーー
今、この刻限によくこの子を居合わせてくれたーー
あっぱれですよーー娘
心の中で亡き娘を誉めると、一子は作法通りに頭を下げ、手を打ち鳴らした。
最初のコメントを投稿しよう!