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ぱぁん ぱぁん
夜の大気を切り裂くように、音が鳴る。
同時に、轟、と空気の流れが一子の足元から噴き上がる。
清浄な気が、一子と晴樹を包み込む。
一子はともかく、晴樹はそれをどう感じているのか、微動だにせずただひたすら目を閉じて手を合わせていた。
一子の口から、祝詞がするすると出てくる。
「かけまくも かしこき」
告げられる神の名は、今この刻限にあまりにもそぐわない。
にもかかわらず、一子は詞を紡ぎ、捧げ、祈る。
「けふの みそぎを ほぎまつると おほまへいに」
ひたりと。
ゆるりと。
夜の闇のその奥から。
呼ばれるように引き寄せられ、力が近づいてくる。
その気配に、一子はいっそう精神を集中させた。
「あそこです。」
車を停車させて、東雲は前方の二階建ての住宅を指した。
玄関前は暗く、家中の窓にカーテンかブラインドがかかっていたらしく、隙間から明かりが漏れているので住人がいることがどうにかうかがえるような家だった。
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