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百々の不安と恐れとは対照的に、弘雄は浮かれた様子で百々に椅子を進めた。
「どうぞ。好きなところに座って。」
今、お茶を出すからという弘雄は、百々に背を向けてキッチンでかちゃかちゃと準備を始めた。
百々は、テレビとソファーの置かれたリビングコーナーではなく、弘雄が見えるダイニングテーブルの椅子の一つに腰かけると、家の中の気配を探る。
人の気配はないように思う。
史生の声も、物音もしない。
だが。
ざわり ざわり
床よりも、その下の土よりも。
さらに深く暗い場所から、こちらをうかがうものの視線が、百々の脚に絡まるような感覚があった。
百々を狙っているのではない。
別の何かーーこの近くにある何かを目指して、いつでも這い上っていけるように。
「お待たせ。」
弘雄が、トレイに湯飲みを乗せて百々の前に立った。
そこから漂う香りは、日本茶ともコーヒーや紅茶とも違う。
「あれ、ハーブティーは嫌い?くせがあるかもしれないけど、美味しいよ。」
勧めてくる弘雄の声に嫌悪感しか感じず、百々はそれに口をつけることが出来なかった。
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