境界の攻防の果てに

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善雄の言っていたことは現実とはかけ離れていると、弘雄はあっさり言う。 ならば、何故こんなことをしているのか。 「けどさあ、八重ちゃんが死んじゃったじゃないか。おかしいだろう。八重ちゃんみたいないい子が死んで、あんな親二人に金が入ってくるってのはさあ。」 八重の事故の慰謝料で、今百々たちがいる家のローンは完済されたのだという。 さらに、善雄の保険金で、弘雄親子の生活が成り立っていたということも聞いている。 「だから、考えてみたんだよ。」 世の中、そうそう都合よくいくわけじゃないーー 「今まで地べたに這いつくばるような人生を俺も八重ちゃんも送ったわけだし、次は俺たちのターンだろうって。」 それこそ、弘雄にだけ都合のいい主張なのだが、自分の考えに弘雄はすっかり酔っているようだった。 何も入っていない証明にと飲んでみせたハーブティーが、実は薬物入りだったのではないかと思うほど、恍惚の表情を浮かべる。
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