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ドアの入り口から見えたのは、両側の棚とその奥の締め切った窓の側の床に倒れている史生の姿だった。
だから、駆け寄った百々は、史生しか見ていなかった。
ふと顔をあげて周囲を見ると、棚と奥の壁の間に若干の隙間があり、そこに中くらいの衣装ケースが三段重ねてある。
どれも黒いビニール袋に包まれたものが入っていて、中が見えない。
その一番上段のケースを囲むように注連縄が幾重にも張られていた。
既製品であろう注連縄に、手作りと思われる紙垂(しで)が隙間なくぎっしりつけられて垂れ下がっている。
紙垂は本来、聖域を表している。
注連縄で区切られたその中は、人の領域ではないと知らせている。
加減を知らない滑稽なほどの量の紙垂と厳重に何本も張られた注連縄から伝わってくるのは、しかし、これを聖と言ってもよいものだろうか。
膝をついていた百々は、史生をゆっくり横たえると、おそるおそる立ち上がった。
注連縄の中、上段のケースの蓋の上に置かれたもの。
それは、大小取り混ぜた数個の石だった。
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