境界の攻防の果てに

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「八重ちゃんは、大人になる前に死んだだろう?子供は賽の河原で石を積むって言われているじゃないか。もしそこに八重ちゃんがいるなら、ほら、ここにもあるよって。ここで積んでいたら、百々ちゃんが呼び出してくれるから、こっちにおいでって。」 「どこから・・・」 「本当は、恐山から持ってきたかったんだよなあ。あそこ、死んだ人間の口寄せをしてくれるから。けど、遠くまで出掛けるってだけでババアがうるさくて嫌味たらたら言いやがるから。」 知っているかい、百々ちゃんーー賽の河原と呼ばれている場所なんて、日本全国にいくつもあるんだぜ? 「佐渡にもな。」 「!」 それを百々は知らなかった。 そのことに触れる必要性が、これまでなかったからだ。 全国で賽の河原と呼ばれている場所は、本当の地獄や死者の国というわけではないのだろう。 しかし、死者を悼む気持ちで積まれたもの、大昔にそこが埋葬場所であったことを示すもの、弔うもののない無縁の遺体の終焉の地を指すものである石も確かにあるのだ。 図らずも弘雄が選んで持ち帰ったものは、そういう意図で置かれた石だった。 死の気配が、千曳の岩の一部と呼応する。
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