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「百々。」
そっと。
いつものように煩く嗜めるのではなく。
導くように香佑焔が百々の耳元で名を呼ぶ。
「うん。わかってる。ちゃんとお詣りしないとね。」
百々は、本殿の前に進み出た。
障子戸を開ける必要はない。
目で直接見る必要のあるものではないのだ。
鈴をからんからんと鳴らす。
まいりましたーー罔象女神
そう告げるための鈴の音が響く。
境内に満ちる気に神経があり、視力があり、思考があるのならば、一斉にそれは百々の方を向いただろう。
史生と東雲は、百々から離れた場所に立っている。
百々のしようとしていることに興味があって見守っているといういうよりは。
近づけないーー動けないーー
今、動いてはならないーー
まるで、本能に警告する何かが二人の足を縫い止めているかのようだった。
百々の後ろで、香佑焔が膝をつき、平伏す。
百々が、罔象女神と呼ばれる力と対峙する瞬間が、訪れようとしていた。
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