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「遅くなったけど、私は朝花都麻奈です。麻奈とでも呼んでね。田舎に住んでたんけど、こっちの方に行きたい大学があるから上京して一人暮らし始めたの。でね、話は私が3歳だったときにさかのぼるんだけど、私が生まれてから父は私の面倒を見ずに遊んでて、それにキレた母が父と離婚したの。父は離婚直後に他の女と結婚したって。で、そんなクソ親父が今年で68になるの。両親が離婚してから私はクソ親父にあったことがないの。だからもう無関係の人だと思ってた。でもね、一昨日、電話がかかって来て、クソ親父が入院したんだって、そんなこと今さ言われてもねだから電話切ったんだけど、また今日もかかってきて、もう死ぬんだって、だから早く来いって言われたの。20年もあってない父親に会えるんだぞって、最後のチャンスなんだぞ、って。べつに父親なんて思ってもないし、会いたくもないのに、体が動いちゃって、、本能的にね。で、急いでバス停に行った
んだけどバス逃しちゃった。べつに他人同然の人に会わなくてもいっかと思って、たまたまそこにいたあなたとお茶に行こうだと思って誘ったの。」
と、スラスラ自分のことについて語りつつも涙がツうーっと麻奈の頬に流れていたことに僕たち2人は気づいた。
びっくりした。同じ境遇だ。僕の親は離婚したのだ。僕が幼い時に。
「でもさ!」
僕の口が勝手に動き、言いたいことがポンポン頭に浮かんできた。いきなり机を叩き、椅子から立ち上がると
「麻奈さんはちがう。麻奈さんは両親が離婚してからも引き取られた方の母親に愛されている。大学にも行っていいよって言われてて、学費も払ってもらえるし、一人暮らしも許される。でも俺は!父親は俺はどうでもいいんだ。大学に行くなって言われてる。大学に行ったって大した大物になれない。お前みたいなやつは工事現場ででも働いとけばいいんだ。他の賢い奴がなんとかしてくれる。っていうんだよ!俺はしたいことがあるのにっ…」
言い切ってから疲れ切った様子で椅子に座った。
「ねぇ」
とこわばった表情で僕を見た。
「あなたは私を幸せ幸せっていうけど、あたしはなんも幸せなんかじゃないわ!むしろ不幸よ!」
「えっ?」
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