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ひなたの言葉に月野は一瞬きょとんとした顔をしたが、やがてクスクスと笑い出した。
ひなたはムッとした。
オレがこんなに切なくて悲しいのに、なにがおかしいんだよ、もう!
「あのな、ひなた。世間の目というのはそんなに節穴じゃないぞ」
「え?」
今度はひなたがきょとんとする番だった。
「おまえがモデルとして雑誌に載り始めてから、ひと月もしないうちに、『ひなたさんは本当は男の子なんじゃないですか?』っていう手紙が届き始めた」
「は?」
「当然、モデルの女の子たちは、おまえが男だととっくに気づいてたし」
「…………」
「もっと言うと、おまえは騙せていると思っていたみたいだけど、オーディションの審査員はみんな、おまえが男だって見抜いてたよ」
「えっ? えっ? じゃ、じゃあどうして、オレ優勝できたの?」
ひなたは混乱してしまった。
「おまえには強いオーラがあるんだよ。この世界で成功するために絶対必要な。それをみんな分かっていたから、黙っておまえを優勝させた。オレがあの日、おまえに声をかけたのも、他の事務所の奴らにかっさらわれないようにするためだ」
「月野さん……」
「あまり期待しないで行ったオーディションだったんだ。規模も小さいし、そうそうスター性のある人間には出会えないしな。実際、芸能事務所で審査員だったのはオレだけだったし。でもおまえを一目見たとき、オレは自分の幸運に感謝したよ。絶対おまえが欲しいって思った」
切れ長の目で見つめられ、そんなことを言われて、ひなたは思わず真っ赤になってしまった。
……なんだか愛の告白を受けているみたいで、切なくなっちゃうよ……月野さん。
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