一章

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ここで一緒に見ませんか? お盆の時期に上がる花火しか見れないので、そんなことは言えずに心の中でそう呟く。 「このマンションから右奥のさ、橋の向こう側。そこにも桜の木があって……仕事が早く終わってここに来れない日はそこで会えないかな?」 「そんな近いところで?」 「あそこは道が狭くて、車も入れないようにチェーンがしてあるの見たんだ。この部屋からは見えないし、あいつは車でしか移動しないから大丈夫」 「そしたら、もっと会えるね」 「うん」 食事のあと二人でテレビを観ながら戯れていると、ブーッブーッブーッとスマホのバイブの音がし、彼が口にひとさし指を当てるのでテレビを消す。 「もしもし」 『まだ帰ってこないの?』 「会社の連中と飲んでた。もう少ししたら帰る」 『そう。また変な女にでも捕まってるのかと思ったわ』 「考えすぎだ。じゃあ切る…………切れた」 「私に隠さなくていいの?その、奥さんとの会話」 「構わないよ」
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