一章

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それから二ヶ月、隣が挨拶に来ることはなく、いつものようにパートへ行く支度をし、エレベーターを待つ。 扉が開き、閉めようかと思った時に「すいません、乗ります」と駆け込んできた男性が一人。 開けるのボタンから閉めるのボタンを押して一階につくあいだに、特に会話もなく降り、ふと視線をあげると男性も驚いた様にこちらを見ている。 「もしかして、沢田……さん?」 「杉浦先輩?え?どうして?」 「二ヶ月前に越してきて。302号室に……」 「あの時の引越しの人って先輩だったんですか?」 「まさか同じ階だとはね。何号室?」 「301……です」 「そう、そうか……ごめんね、挨拶にも行かなくて。うちの嫁が行かなくていいって聞かなくて」 「いえ。じゃあ、私はこれで」 そう言って逃げるようにロビーから離れ、自転車置き場に行って急いでその場を離れる。
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