一章

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先輩、杉浦洋輔( すぎうらようすけ)は、結婚前に働いていた会社の先輩で、ずっと憧れ続けていた人だった。 一時期、互いが恋に落ち、誰もいない資料室、会議室などで逢瀬を重ね、時には夜の公園で一言二言だけ話して別れるといった日々を重ねていた。 先輩には結婚を約束した今の奥さん、当時は婚約者がいたから…… その後、先輩の結婚の日取りが決まり、それに耐えられなくなった私は、親に頼んでお見合いをし、少し年の離れた人と結婚をする為に、逃げるようにして会社を辞めた。 忘れたことなどない。 あの頃は、自分の名前を男性の名前に適当に作って登録して先輩に登録してもらい、メールも送受信を必ず消すこと、電話はしないこと、もし、電話が掛かってきても、大丈夫なら一回、駄目なら二回通話口を一度指で叩くこと。 そう決まりごとをしていた。 そして私は何も言わずに退職届を出し、逃げた。
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