三章

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六畳二間と台所位しかない小さな家を見て、「何も無いんだな」 そういう彼にお茶を入れる。 飲み物しか入らない程度の冷蔵庫、台所も包丁とまな板、フライパンがひとつ。 お皿や茶碗もひとつずつ。 テレビもなく、机がひとつ置いてあるだけ。 「まさか……」 「信じてみようと思ったの。迎えに来てくれるって」 「妊娠のことせめて教えてくれてたら……」 「何度も言おうと思ったけど、言えなくて。産む前に住所を移すつもりだったの。その後に色々揃えたらいいかなって考えてて」 「帰ろう。俺たちの家に」 荷物を持ってもらい、車に乗り、それが会社の車と気づくまでしばらく掛かった。 「昨年……あなたが引っ越してきた時は、桜が満開の時で、花びらが舞っているのがとても綺麗で、でも、どこか儚い感じだった。 今年はもう散ってしまったけど……」 「来年は三人で見に行こう」 そして途中で役所によって婚姻届を提出し、久々にマンションに帰る。
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