一章

7/21
前へ
/53ページ
次へ
部屋からしとしとと降る雨を見ながら、当時のことを思い出す。 あの頃も彼女とは別れたい。 一緒になりたいと公園で言っていた。 当時の話では、今の奥さんが会社で見かけて一目惚れをし、惚れ込んでかなり迫った所に、当時の上司が間に入って取り持ったことがあり、別れるに別れられないと言った話は周りからも噂されるほど耳にした。 だったら別れたらよかったのにとその時は何度思ったかわからない。 先輩も、仕事も出来るし、部下からの信用も厚かった。 だから余計に上司の言うことに背けなかったのもあるだろう。 それに、奥さんはかなりの美人でスタイルもいい。 良く、会社のロビーで待っていたので、何度も見かけたことがある。 体にフィットしたスーツ。 胸元を大きく開き、短いスカートで足を組んで座る姿に、男性社員は鼻の下をよく伸ばしていた。 そう、まるで誘惑でもするかのように。 そこまで思い出して、今もそうなのか?とふと疑問に思う。 当時の先輩はちょうど30歳。 奥さんは27だったはず。 そして私は25…… あれから六年。 流石に体型も変わっているだろうと、そこで思考を止め、白のセーターにジーンズという格好で、スーパーにでも行こうと家を出る。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加