落花流水

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落花流水

「う、あああああああ・・・」 手も足も動かない。 目も見えない。 泣き叫んでも、行為は止まらない。 俺はこの夜、 ――誰かに、犯された。 目を覚ますと、 何もなかったかのように片付いていた。 衣服もベッドも乱れていない。 けれど、身体が鉛のように重い。 鈍痛が走る。 ・・・夢じゃ、ない。 夢だったら良かったのに。 「・・・・・・」 昨日の夜、 誰かが俺を強姦した。 眠っていたので断面的にしか覚えていないけれど、 犯人は俺が寝ている隙に部屋に入り、 何かで俺に目隠しをした。 何かで俺の手足を封じて、 ・・・いや、服を脱がしてから手足を封じたのかもしれない。 妙なくすぐったさを覚えて目を覚ました俺は、 目を開けても視界が暗いことに違和感を覚えた。 同時に、恐怖も。 抵抗しようとしたけれど、自由がきかなかった。 ただ叫ぶことしかできなかった。 そのうち、身体の奥に指か何かを入れられて、 その後―― 「く・・・っ!」 思い出して、身体が恐怖で震えた。 どうして、 どうして俺が、そんなことをされなきゃいけないんだ。 ・・・あ、 ふと、ある考えが頭を過ぎる。 犯人は・・・誰だ? 俺はこの家でシェアハウスをしている。 俺の他に3人の人間が住んでいる。 その人たちの目を掻い潜って、 俺を襲えるはずがない。 まず家に侵入した時点で、誰かに気づかれるはずだ。 いや、それ以前に、 俺の部屋は2階だ。 昨日は窓も閉めていた。 つまり、侵入するのは不可能だ。 だとしたら犯人は、 3人が不審に思わない人物。 もしくは・・・ 3人の、誰か。 ・・・そんなこと、信じたくない。 3人とも、俺にとっては兄のような存在だ。 椿さんが俺を拾ってくれてから、ここでの生活が始まったけど、 トシさんは優しく迎えてくれたし、 健さんはバイトだって紹介してくれた。 そのうちの誰かが俺を強姦するほど憎んでいるなんて、 信じたく、ない。
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