序章

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自覚は痛いほどしている。 だけど「妹」という存在が、俺を、俺の心を動かしている。 妹は唯一生きている、たった一人の肉親だ。 しかし、それだけではない「何か」の感情が妹にはある。 その感情が何なのかは俺にはわからない。 嫌悪、劣等感、軽蔑、殺意、恨み、罪悪感、嫉妬、恐怖。 その何かかもしれないが他の何かかもしれない。  …なぜか嫌な感情ばかり思いつくな。 いや、プラスな思考ができないからかもしれない。  自分の事なのに、「かも」や「しれない」と分からないことばかりだと気付く。 案外、自分の考えていることなんて自分自身、自覚はしていないということは結構あるんだな。  そんな俺にとって特別な妹が、18歳まで生きられないと宣言されているのだ。 あの鬼の言う通りにするしかないし、他に何をすればいいのかわからないので動かずにはいられないだろう。  だが、ふと思う。 またいつものように俺は、兄として、人間としての当たり前な行動さえも「偽物」なのだろうか。 それでいつものように、偽物を本物だと偽って妹に、自分に嘘をついているだけではないか、と。  結局は、なにも変わっていないのだ。 そうだよ。 そんな簡単に人間が、況してやこの数年間人斬りに浸っていた人間が変われるはずがない。  だからこんなに苦労したんだ。 それを一日二日で変えられたら、八つ当たりで世界滅ぼすぞ。 そんな事、出来るはずかないけどな。  体が幾つあっても足りない。  俺はいつまで経っても、どうしようもなく愚かで惨めな兄で、たった一人の女の子すらも守れない子供だ。 本当に何も変わっていない。 あの子供だった頃のまま。 変わったのは、建前と偽善を覚えたことだけ。  しかしこれは単純に妹を守りたいだけだと信じたい。 やっぱり俺は皆と変わらないただの人間だと、ただの17歳の高校生だと。 そんな当たり前の事を証明するために。 ―――――否。
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