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いらっしゃいませーって声はいつもと変わらずやる気がなくて、わたしはほっとしながらコンビニに入った。
店内はぽわりとあたたかくて、コートをはおった体から自然と力が抜ける。
わざと雑誌コーナーを迂回しながら、店内をぐるりと一周した。
すぐ彼の元へすっ飛んで行けばいいのかもしれないけど。なんだか照れくさいし、キャラじゃないしで、わたしはわざと先延ばしにするみたいに、新商品のチョコに手を伸ばしたりして。
買う気はないんだけど。なんだか、この感じをもうちょっとだけ味わいたくて、それで。
……うっとおしい女ですともよ。
似合わないのも知ってます。
だからせめて顔だけはうっとおしくならないように、きり、と引き締めながら、ようやくわたしは、分厚い漫画雑誌を開いてる背中を叩いた。
「やあ」
「香緒里!」
片手を上げると、陸はぱっと明るい表情になって、雑誌をラックに戻そうとする。
「キリのいいとこまで読んだら?」
「だいじょうぶ、またいつでも来れるし。さ、行こっか」
陸は散歩を待ちわびた犬みたいに、わたしを出口まで引っ張っていった。
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