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笹内が彼女を手元に置いているのは、「裏正流」のいつもながらに迂遠な指示を、そうせよ、と言われたと解釈してのことだ。
血統にあたらず、厳しい修行を経ることなくも、「道」を開くすべを知る、「一般女性」から目を離すな。
と。
実際のところ「裏正流」は、おそらく、彼女になんらかの利用価値を見出しているのだろう。
それは間違いなく、天性の才ではあるのだから。
彼女にとっては、幸か不幸かはわからないが、否、どう考えても、不運なことには違いないだろうと思う。
「裏正流」の思惑も、名家の末裔同士の確執も、世にはびこり始めた新たな呪術に関してすら、彼女自身の興味とは程遠いところにあるのだから。
「香緒里ちゃん、目を覚ましなさい。今夜の仕事はまもなく終わるよ。まったく、君はすぐ僕の都合を無視して勝手に動く……」
笹内は遊歩道に膝をつき、空気を圧するように声を出す。
しかし、香緒里の瞼はようやく眠りを手に入れた不眠症患者のもののように、重く垂れたまま、ぴくりとも動かなかった。
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