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表情筋から緊張が取れた表情の香緒里は、いつもよりあどけなく見える。
いっそ安らかにも見えるようだ。
それを見ているうちに言葉にならない焦燥感が浮かび、笹内は彼女の肩を揺するべく、なにげなく手を伸ばしかけた。
――が、
触れんとした直前、畏怖のような電撃が指先に走る。
笹内は、冷然とした表情を動かさないまま、呼吸と動きを止めた。
ひどく蒸す夜に、出口を失っていた汗が、一瞬のうちに、顔にも背中にも浮かんでいた。
うつわに触れる、というのはすなわち、自らのうつわをそこにつなげる、ということだ。
彼女の、今、異界にあるであろう魂に。
あるいは、未知数の呪力を持つ《花嫁》そのものに。
笹内は陰陽師の家系に生まれ、不まじめながらもそれなりの修養を積んでいるので、異界への出入りも可能なら、断絶の隙間にこぼれることもなく、何より、たやすく悪いものにうつわの主導権を渡したりするようなミスは犯さない――筈なのだが、彼の助手という不確定要素が加わった時、なんとも言えなくなる。
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