番外編① 奈落に響くうた

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「裏正流」が恐れるほどの、《花嫁》の力。  その内実を、笹内は、異界との異常なほどの「近さ」と見ている。  普通なら、生者はそう簡単にあちらへは行けないし、帰れない。  それを可能としたのは、純愛――というものに笹内は詳しくないが、そう呼ばれている、結局は感情の代物だろう。  彼女の呪力の源、そして力そのものは、天然ゆえに、その有り様はひどく危ういものだ。  簡単に、強くも、弱くも、なる。  時に暴走し、稀に消えることすら。  笹内も、ごく幼い頃ならば、あるいは完全に素人だったならばともかく、制御された呪力に親しんだ今となっては、野ざらしのそれを見ていることに生理的な不安も覚える。  規格外のそれに引きずり込まれることを警戒し、敢えて近付きたくはないが、しかし預かったものの責任を放棄するのも性に合わず、我慢を続けていた。  ましてや彼女、香緒里は、呪力だけではなく、精神のバランスも危ういものを持っていた。  仕事にはまじめで、基礎能力が高く、基本的には思慮深いのだが、時折、目を塞ぎ、耳を塞ぐようにして、暗闇の方へと、向かって行ってしまう。  ――無論、どこに行きたいのか知らない笹内ではないのだが、どうぞと行かせてやるわけにもいかないため、結果、目が離せない。
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