番外編① 奈落に響くうた

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 学生時代、合唱部に所属していたという彼女は、この曲ではないが、以前からよくいろいろな歌を口ずさんでいた。  入院中のベッドで。事務所の窓辺で。見回り中の夜道で。  小さな声で。遠くを見る目で。  とても楽しんでいるようには思えない、茫洋とした表情で。  自分で得意だとも思わないらしく、笹内が聴いているのに気づくと、すぐにやめてしまうのだった。 「人に聴かせる歌ではないから」  言い訳をするように、そんなふうに、言っていた。      やさしき言の葉のみくれし      恋人の膝の上にぞ帰りたし      つひに叶はぬことばかり吾に語りし恋人ぞ  ――では、誰に聴かせるための、と、  笹内は、野暮は言わない。  “やさしき言の葉のみくれし恋人”を、再び冥界に送り還したのは、他でもない笹内なのだから。
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