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彼女が歌うたび、笹内は思い知らされる。いつもいつも、当たり前にその場に居合わせるのは、自分しかいないのだと。
――《花嫁》を《花婿》に会わせてやるには、彼と同じ罪を背負うのが一番簡単だ。
何かの間違いで死んだ香緒里を、反魂の術で呼び戻してやれば、彼女も餓鬼道に堕ちる。ことができる。
(そのための術式を、笹内はもう知っている。――そう、その話だ。かつて、過去、彼女としたのは)
だから、とにかく、何があっても、彼女を目の前で死なせるわけにはいかないのだ。
完璧に、エゴの話。
「……たいせつなのは、秩序だ。香緒里ちゃん」
「いきなり、何です」
「…………食い逃げはだめなんだよ」
「わかってますよ。言われずとも。だけど、霊体はお金を持っていないんです」
「……だから、鬼は還さなくてはいけない」
だいぶ苦しい、とわかりながら、笹内は言った。香緒里は突っ込まず、口端でちらりと微笑って、最弱の式紙を笹内に戻した。
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