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「────っ!」
声などでない。
頭は回らない。
人といえば人ではあるが、人に猫耳も尻尾もありはしない。
猫といえば猫であるが、猫はあんなに大きくはないし、あんなに少女然としていないだろう。
「一度言ってみたかったのさ。」
猫少女はそう言った。
人のようで猫のような少女は言った。
人の言葉でそう言った。
人の形をしている猫の少女。
あるいは猫になった人の少女。
どちらかなどどうでもいいが、一言で形容するならば、これは────
猫の化け物だ。
「名前はある。ないとは言わない。名前はある。しかしお前に語るつもりはないし必要はない。」
猫の化け物はニタリと笑う。
猫のように。
「おっと私としたことが、語尾をつけるのを忘れていた。うっかりしてたにゃん。」
取ってつけたように猫の化け物は言う。
一体全体この世界のどこに語尾ににゃんをつける化け物がいると言うのだろうか。
そもそも化け物が実在すると言うのは抜きにして。
「でも安心していいぞ。語尾ににゃんをつけようと、『なにぬねの』を『にゃにぃにゅにぇにょ』とは言わない。私はあくまで私と言うキャラ付けのために語尾ににゃんとつけているだけだから。」
既に語尾ににゃんを忘れている。
いやそんなことはどうでもいい。
しかしこの猫の化け物がふざけたことを言ってくれたおかげで、少し落ち着きを取り戻せた。
こののっぴきならない状況において、頭を働かせる余裕が少しばかりできた。
「さて人間。語らうのはこの辺りにしておこうではないか。私はあまり頭がいい方ではないからな。人間と喋っていると、疲れる。」
僕を人間と呼んだ。
つまりあれはやはり人間ではなく、猫。
猫の化け物で間違いはないと言うことだろうか。
どんなに少女の姿をしていようとも、その色っぽい肢体がどうみても人間の女のもののように見えても、あれはやはり、猫の化け物なのか。
「お前は……何者なんだよ。」
「何者ぉ?」
化け物は首を傾げた。
訝しげに、疑うように、そして、蔑むように。
「『何者』と尋ねるってことはお前は私のことが人間に見えるのか? だってそうだろう? 『何者』とは人に対して使う言葉だ。」
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