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いくら人と同じ姿形をしていようとも、この化け物はやはり人間ではない。
けれど人間はそんなに器用な生き物じゃない。
目の前のコイツが人間ではない何かだと頭ではわかっていても。
とても作り物とは思えない生々しい耳や尻尾を目の当たりにしても。
そのほとんどを人間的要素で埋め尽くされているコイツを、どこか人のように表現してしまう。
「私は人間ではない。人間などありえない。私は猫だ。猫として生まれ猫として育ち猫として死んだ。そして、今も尚猫だ。」
そう。この化け物は猫なのだろう。
よく見てみれば耳や尻尾だけではない。
腕や足にも猫らしさが見て取れる。
大まかな形状は人間のそれだが、腕は肘、足は膝まで猫の毛で覆われており、またその鋭い爪は明らかに人のものではない。
「だからなぁ人間。間違っても私を人間と言ってはいけない。人間はお前で私は猫だ。」
暗闇に光鋭い眼光で化け物は僕を見下ろしながら立ち上がった。
街灯の上で二足の足で立ち上がった。
「じゃあお前の目的はなんなんだ……!」
「目的ぃ? そんなものない。」
「ないって……」
「あぁ、お前は、私がお前を襲う目的を聞きたいわけか。なるほど。けれど残念ながらそんなものはない。
目的も理由も原因も何もありはしない。
私はたまたまここにいて、たまたまここにお前がいて、たまたま私がお前を殺したくなって、たまたまお前は殺される。
ただそれだけのことだ。」
「なんだよ……」
めちゃくちゃだった。
とてもあまりにもめちゃくちゃだった。
「なんだよそれ!!!
そんなことがあっていいわけがない。
何の意味もない、何の目的もない殺人だなんて。だって……だって!
人は、殺しちゃいけないんだ……!」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ────────!!!!」
唐突にけたたましい笑い声をあげる。
震え上がるような冷たい笑い声。
「何を言い出すのかと思えば。
『人を殺しちゃいけない』? そんなの──」
先ほどまで笑っていた化け物はすぐにその笑みを消して鋭い目線で僕を貫く。
「人間のつまらないルールの話だろう?」
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