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化け物は、言った。
「それはお前たち人間が勝手に作ったお前たちの中だけで適用されるくだらない拘束だ。
なぜ、どうして私が、私たちがそんなものに縛られなきゃいけない。
関係ない。関係ないんだよ。
私にそんなものは関係ない。
だからお前は死ぬ。私に殺されて死ぬ。
そこに理由が欲しいなら──そうだな。
私が殺したいと思ったから、で納得しろ。」
僕は走った。
一目散に走った。
化け物の足元をくぐり抜けて、振り返らずに走った。
あのままあそこにいたら殺される。
わけのわからないまま殺される。
それは嫌だった。
僕は死にたくない。誰だって死にたくない。
つまらない人生だって、劇的でない人生だって、人は誰だって死にたくないんだ。
だから僕だって死にたくない……!
「ふむ。逃げ足はなかなか早いな。
チョロチョロすばしっこい。
まるで鼠のようにちょこまかと。」
気がつけば化け物は目の前にいた。
追ってきた素振りすらなかったのに。
追われている気配はなかったのに。
既に化け物は僕の目の前にいた。
「しかし猫ってのは、そういうちょこまかしたのを相手取るのは得意なんだ。」
痛いと思うよりも先に、自分の体から赤い飛沫が散るのを見た。
その真っ赤な光景を目の当たりにしてから、遅れて耐え難い痛みが全身にほとばしる。
切られた。斬られた。斬り裂かれた。
痛い。痛い、痛い痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ──────────────!!!!!!!!!!!!!
逃げることを忘れた。
死への恐怖も忘れた。
何もかも忘れた。
ただただ痛い。取り敢えず痛い。どこまでもただ痛い。
その場にうずくまる。当たり前だ。
胸を鋭い爪で引き裂かれ動けるわけがない。
身体が熱くて温かい。
血がいっぱい出ているからか、はたまた中身が出てしまっているのか。果てしない虚無感と喪失感が襲う。
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