鼠の章

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 近かった。  いわゆる不良が相手を威嚇するときにするであろう、顔面を至近距離まで近付けて睨みつけるあれを、リアルにやられた。 「後前田(うしろまえだ) (まこと)だ。高校二年。てめぇの先輩だ。後前田先輩様と呼べ。」  まさかの自己紹介をされた。  まさか僕の人生において鼻と鼻がくっつきそうなくらいの至近距離で睨みつけられながら丁寧かつ威圧的な自己紹介をされる日が来ようとは夢にも思わなかった。 「脅すなばか。」  そんな後前田先輩様々の脳天にチョップを入れ、首根っこを掴んで引き離す辺見先輩。 「悪く思わないでね。見た目はこんなだけど結構良い子なのよ。そうは見えないけどね。」 「余計なこと言うなっつってんだろ! しばくぞ!」 「君が私にしばかれたいみたいねぇ。」  また鋭い目になる辺見先輩の目に、後前田先輩はギクリとする。  どうやら後先考えず悪態が口を付くタイプらしい。 「さてと、後輩の華々しい高校生活の初日を邪魔するのはこれくらいにして、私たちは行こうかねぇ。  後前田をしばくと言う新しい用もできたことだし。」  おっとりした物言いは相変わらずのまま、しかしてきぱきと辺見先輩は言った。  けれどあまりにも突発的と言うか不可解なことと言うか、とにかく色々ありすぎて、何も聞かずにそのまま行かせるわけにはいかない。  そんな僕を見て、辺見先輩はニヤッと笑う。 「何だか私に質問したげな顔ね。  でも私たちこれから用事があるし──取り急ぎ後前田をしばくのはもちろんなんだけど。」  意地悪い笑みを浮かべながら考えるそぶりをする辺見先輩だったが、恐らく、彼女の中でもう答えは決まっているんだろう。 「仕方ないから、一つだけ質問させてあげる。一つだけなら、優しい美少女先輩はなんでも答えてあげる。」 「わかりました。」  聞きたいことは山ほどある。  先輩と出くわしたこのわずかな時間の間に、聞きたくなるような不可思議なことが満載だ。  けれど先輩が質問は一つだけと言うならば、仕方ないから一つに絞るしかない。  なら、聞くことは決まっている。 「辺見先輩のそのがっつりスリット、先生には怒られないんですか?」
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