鼠の章

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結論から言うと、優しい美少女先輩であるところの辺見先輩は、僕の質問にきちんと答えてくれた。  聞いておいてなんだが、その答えはひどく味気なく単純、というか、それを言ってしまったらおしまいという感じの内容だった。  つまりは、制服のスカートを切り裂いてエグいスリットを自作してくるなんてことは勿論許されるわけはないのだから、辺見先輩は単に強行突破しただけらしい。  何度言われようと何を言われようと聞く耳を持たず、一切の反省の色も更生の色も見せず、ただひたすらにそのスリットを貫き続きた。  やがていつかは教師が呆れ果てて根負けして何も言わなくなる。  ただ単に、なんの工夫も特例もなく、彼女はひたすらに問題行動に邁進しただけということだった。  何というか、デンジャラスだ。  ただ話に聞くだけならまぁ何の捻りもない面白みもない根比べな訳だけど、それを実行に移し、何を思われるのも厭わず自身を貫き通すその精神構造はあまりにもデンジャラスだった。  そんな奇想天外な先輩に声をかけられてしまったという事実を、幸ととるか不幸ととるかは、正直判断に困る。  いや普通に考えればそんな問題児に関わってしまうなんて不幸なことこの上ないのかもしれない。  けれど、一概にはそう言い切れない気が、何となくする。  唐突に突然に何も前触れもなく僕の前に現れた先輩。  まるでどこぞのヒロインかのように出会ってきた先輩。  彼女のことをそう悪く思えない自分が、どこかにいた。  それはそういうシチュエーションに憧れていたとか、幻想や空想の世界を日夜望んでいるとか、そういうファンシーな理由じゃない。  そうじゃないことはわかっていても、本当の理由はまだ今の僕には分からなかった。  それはきっと僕がまだ何も知らないからだ。  何も知らず、何も分からず、何も見えていない、この世界の大多数の人々と同じ、普通の人間だからだ。  だからつまりどういうことかというと。  セクシーでミステリアスで美少女な先輩や、明らかに柄の悪い生真面目な不良面の先輩に出会った入学式終わりのあのひと時のできごとは。  これから起きて、巻き込まれて、付き合っていかなきゃいけない出来事に比べれば。  ほんのプロローグに過ぎなかったということだ。
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