鼠の章

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 猫の集会でもしているんじゃないか、と言う許容量でさえ既に超えていた。  これは恐らく、世界のどこかにあると言う猫の数が人間の数より多い国よりも多いのではないかと言うほどに、猫が沢山いた。  数えるのも億劫なほどの猫が、僕の周囲にたむろしている。  各々自由気ままに、およそ猫ならそうするであろう程に好き勝手に鎮座している。  別に僕に何かしてくるわけではない。今は。  しかし、多いと言うのはそれだけで酷く気持ちが悪い。  普段なら可愛いと思う猫たちもここまで多いとただただ気持ちが悪い。  急いでここから立ち去って、一刻も早く家に帰らなければ。  そう思っているのに何故だか足が動かない。  つまりそれは、この夥しくも気持ち悪い光景に、僕は並々ならぬ恐怖を感じていると言うことの現れだった。  早くこの人気が少ないのに猫気の多い空間から逃げ出したい。  そう思えば思うほど、僕の足は地面のアスファルトとの交友を深めて行く。  普段ならば結構な猫好きであるところの僕でさえ、この状況は受け入れがたい。  昔小さい頃猫を飼いたいと駄々をこね、結論として姉が猫アレルギーだから飼えないと親に言われて大泣きしたほどに猫は好きだけれど、これは無理だ。  世界中で昔から、猫は幸福の象徴とも不幸の象徴とも言われているけれど、この場合は明らかに不幸の前触れとしか考えられない。  そう言ったとき挙げられるのは白猫や黒猫が多いが、ここまでの数の猫がいれば、最早何猫だろうときっと関係ない。  普通の街の普通の道に、これ程までにおびただしい数の猫が集結している時点で、それはもうあまりにも不吉だ。  この場合別に猫じゃなくても同じだろうけど。  とにかくこの場を離れないと。  この場を離れ家に帰らないと。  ここにいてはいけない。  きっと僕はここにいてはいけない。  ただ猫が沢山いるだけ。  けど、ここにいてはいけないと全身が悲鳴を上げている……!  地面に張り付いて動かない足に鞭を打ってゆっくりと後退る。  走り去りたい衝動を抑え、慎重に後退する。  走るなんて大きなアクションをとってしまったらこの沢山の猫たちを刺激してしまうかもしれない。
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