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夕陽の静かな明かりだけが病室を照らす中、ベットに入っているいたいけな少女がポツリとこぼした。その少女は十人中十人が美しいというほど、完成された美を持つ少女だった。
けれどその声は小さく、か弱く、隣の兄は跪いてもう一度、と言う。
「わ、わたし……わたし、ね」
「ああ、なんだ? 」
「わたし……ボーイズラブが、見たいの」
兄は一度フリーズした様子を見せ、苦笑する。いつもパソコンでそういうものは見ているはずだ、これ以上何を求めるのだろう。
「ちがう、ほんものがいい! 」
「ほ、本物? 」
本物のボーイズラブ、とは一体。兄はいつもの鉄面皮をたたえながら、脳内では「ゲイバーの人達でも連れて来ればいいのか」と大変阿呆なことを考えていた。中身はまだ男子中学生なのである。
「おにいちゃんにしか、できないの。
____王道学園に行けるのは」
涙で潤んだ瞳と、白い肌が朱に染まる姿は、あまりにも儚すぎた。兄は拳を握りしめ、母に連絡する。
母は最初驚いていたが、「覚悟があるのね」と感心し了解の意を返してきた。
父は本気で心配してくれていて、兄はそれに感謝しながら自分を奮い立たせる。
「俺は妹の笑顔を見たい」
この兄の名は、橘花真尋。
異常なほどの、妹バカであった。
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