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わたしは先月、こどもの頃から一緒だった家族を亡くした。コロという雑種の犬で、誰の前でもすぐにころんと寝転がってお腹を見せる子だった。そのお腹に顔を埋めると、抱きしめるように短い脚でわたしの頭を撫でてくれる。彼は間違いなく、わたしの優しい弟だった。
実家からコロの様子がおかしいと電話があり、息を切らせてわたしが帰って来ると、コロは浅い呼吸のままころんとお腹を見せた。よく来たね、とまるでわたしを抱きしめようとしているようだった。
「どうしたの、どこか痛いの」
わたしはコロの身体に頬ずりをして、彼を撫でた。彼は心細そうに一鳴きした。「痛くはないよ。ただ、不思議な感じがする」という声が聞こえたようだった。わたしはそれ以上何も喋れずにコロを撫で続けた。とろとろとコロの瞼が下がり出す。眠らないで、とわたしは強く思った。でも、この眠りを妨げてしまうのは、彼にとって良くないことだと理解していた。隣に居た母はもう啜り泣いていた。ようやく父から連絡が来る。母が泣きながら事情を伝えた。テレビ電話機能によって父の顔が映ったスマートフォンを母はコロの前に置いた。
「コロ、ステイだ。まだそんな時じゃない。ステイだよ、コロ」
父は混乱し切った様子でコロに話しかけていた。待ってくれ、と犬に伝えるには、確かに父の言葉は届きやすかったかもしれない。コロは父の声がするスマートフォンに小さく返事をした。そうして、コロはわたしと母を見遣った。コロ、とわたしと母は呼び続ける。父もステイを繰り返している。コロは、ゆっくりと目を閉じた。その瞼はもう開かなかった。
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