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眠ってしまったジャッキーのお腹をもうひと撫でして、わたしは客室へ向かった。手続きがあるから先に行ってて、とあずさに言われたのだ。荷物持ちの男性がわたしを先導してくれる。寡黙な雰囲気の人だった。
中庭に面した渡り廊下を通ると、サッカーをしていた青年たちがわたしに手を振ってきた。真っ白な歯を見せて「よい時間を!」と言ってくれているようだった。わたしはあやふやな英語で「ありがとう」と返す。すると中庭の木陰が動いた。真っ黒な犬がのそのそと歩いてきたのだ。真っ黒な犬はわたしの周囲をくるくる回って、スーツケースの匂いを嗅ぎ「異常なし」と思ったのか、また木陰に戻っていった。
サッカーボールがわたしの方へ転がってきた。ヘイ、と言った青年へ、わたしはボールを蹴り返した。よく弾むボールで、見当違いな庭の隅に行ってしまう。すると木陰の黒犬がやはりのそのそと起き上がってヘディングを決め、青年たちへとボールを転がしてくれた。
「いい子だ、マーク! ありがとう、お嬢さん!」
マークと呼ばれた黒犬が尻尾を一度、大きく振った。青年たちはまたゲームへと戻っていった。わたしは思わず荷物持ちの男に尋ねる。
「ここにはどれくらい犬がいるんですか?」
「五匹です」
「みんな大きいのですか?」
「はい、番犬ですから」
ウォッチドッグ、と荷物持ちの男は言ったけれど、しっくりこなかったのか少し訂正した。彼は控え目に、けれど誇らしげにこう言った。ゼイ・アー・バトラー、と。
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