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部屋に入ると、香の匂いが強くなった。ロビーで焚かれていたムスクの匂いとは少し違った、森の中にいるような香りだった。ベッドには色鮮やかな南国の花が散りばめられている。窓を開けると強い日差しが目を刺す。遠くから潮騒も聞こえてきた。それに混じってがらがらとトランクの車輪の音が近づいてくる。
「お、めっちゃリゾートだ!」
手続きを終えたあずさが歓声を上げながら部屋に入って来た。
「うわ、花のベッド? すごいね、あたしら新婚さんみたいじゃん」
「このお花、どうしたらいいかな」
「裁縫道具あるからお手製のレイにしちゃうとか」
「そんなことできるの?」
「できるんだなぁ、これが」
でもその前に荷解き、とあずさは鼻歌交じりにトランクを開け始める。コンセントのアンペアを確かめたり、トイレやお風呂がどうなっているのか確認する。トイレットペーパーはなく、お風呂はシャワーのみ。それもお湯が出るのは最初の約十分間だけだという。聞きしに勝る、とどちらからともなく呟いて、ふふっ、と二人で笑ってしまった。この宿泊場所に来るまでに「サービス」「便利」「衛生」という言葉は頭の辞書から綺麗さっぱり消えてしまっていた。
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