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「あれえ? 怒ってる? シロちゃん」
駅に向かう坂を下りながら、李々子が稲葉を覗き込んでくる。稲葉はそんな悪びれない李々子に根負けし、ようやく手を放した。
「怒ってはいませんけど、学校で抱きつくのはやめてください。僕、一応先生なんですから」
「だってー」
李々子は少し拗ねるように唇を尖らせた。
「かわいいシロちゃんをあんな若い子に取られちゃうなんて、悔しいじゃない」
「取られるとか無いですから。僕は講師ですよ。生徒となんて何も起きません」
「ええ~、それはつまんないわよね。せっかく女子高の先生になったのに、醍醐味がないわ」
「いったいどっちなんですか李々子さん」
「モテてもモテなくても、シロちゃんの事が心配だってこと。
さ、そんなことより、諒が待ってるわよ。今日は道草無しで行きましょうね」
いつも自分が道草に誘うくせに、李々子はそう言ってニコリと笑うと駅の改札を抜けていった。
稲葉も定期を取り出す。
それはマンションと学校を往復するだけだった昨年までは必要なかった物。
宇佐美、李々子、稲葉、3人で構成されるラビット・ドットコムへ行くための、特別な定期だった。
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