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稲葉の学校の最寄駅から五つ目で降り、そこから7分歩いたオフィスビルの13階に、ラビット事務所はあった。
「わかりました。では一度こちらへお越しいただいて、お話を伺うと言うことでよろしいですね。……はい。ではその時間にお待ちしています」
稲葉と李々子がドアを開けると、ちょうど宇佐美が電話を切る所だった。
宇佐美諒、34歳。高身長で引き締まった体。どことなく愛嬌のある二重の目に、緩くウエーブした癖毛。
稲葉のような二枚目タイプではないが、初対面の人間に親しみを感じさせる独特の柔らかい雰囲気を持っている。
准教授の椅子も狙えるほどの優秀な医大院生であったが、訳あって中退した経緯を持つインテリ人間だ。医学のみならず多方面への博識っぷりは、稲葉が一目置く部分でもある。
けれど、その飄々としたユニークな人間性と大らかさは、そんな諸々を忘れさせてしまう。
「あれ? 今日は早かったな、稲葉」
電話を切った宇佐美が話しかけてきた。
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