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ノートの番号から、これが1冊目であること、そして亡くした奥さんに宛てた日記なのだと言うことは推測できた。
片瀬はナンバー「3」を手に取り、再びページをめくったが、ふと違和感を感じる文章に行き当たり、そこで手を止めた。
『--11月15日--
遠馬は本当に素直でいい子に育っているよ。
私が帰るのをずっと首を長くして待ってるんだ。寂しがり屋なんだね。
時々、どこで覚えて来たのか酷く乱暴な言葉を使う事があるんだが、根気よくそれは悪い言葉だと教えてあげている。そうするともう二度とその言葉は使わない。
本当に賢くていい子だよ』
子供がいたのだろうか。だが、確か一人暮らしだったはずだ。
片瀬は不思議に思い、パラパラとページを戻した。
けれど子供の話は、仕事の悩みや日常の何でもない話の隙間にポツポツと書かれているだけで、詳しいことは分からなかった。
たぶん、ここに移り住む前に育てていた子供であり、何らかの事情で引き離されてしまったのだろうと片瀬は思った。したがってこれは随分昔の日記なのだろう、と。
「片瀬さん、これ片方持ってもらえますか? 吉川、今トラック移動させてるんで……」
ひょろりと背の高い木ノ下が、小型冷蔵庫の横に立って申し訳なさそうに言った。
「ああ、悪い。今行くよ」
側にあった小さめの紙袋にそのノート4冊をガサッと放り込むと、片瀬は急いで作業に戻った。
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