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市街地のはずれの駅から10分ばかり緩い坂を上った高台に、その私立の女子高はあった。
新設されてまだ数年の校舎は、誇らしげに陽の光を受け輝いている。
時刻は18時過ぎ。
初秋のこの時期は夕刻とはいえ充分に明るく、昇降口や校庭は、クラブ活動を終えた女生徒達の軽やかな声が響いていた。
その日のカリキュラムと翌日の準備を終えた稲葉も、下校していく女子高生たちを微笑まし気に見つめながら足早に校門へ向かった。
「稲葉先生、あの、ちょっといいですか?」
けれど校門の手前10メートルのところで呼び止められ、きょとんとした稲葉の元に、二人の女生徒が少し恥ずかしそうに駆け寄った。声を掛けたのは背の高いロングヘアの女の子の方だ。
当然ながらその横を通り過ぎる生徒はチラチラと視線を送る。その目を気にするような二人の仕草が、稲葉にはとても可愛らしく感じた。
「え? 僕に何か?」
少しだけ道の端に移動しながら、稲葉は爽やかな笑顔を作った。
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