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稲葉幸一、28歳、独身。
定時である18時までは、その女子高の1、2年の歴史を受け持つ常勤講師だ。
スッキリと鼻筋が通り、切れ長の涼しげな目、ほっそりとした顎、すらりとした体。
産休の講師に替わる臨時講師として就任した3年前は、ホスト先生と呼ばれるほどその容姿は女生徒たちに好評だったが、その名もじわじわとしぼみ、2年目にはすっかり影をひそめた。
その代わりに浸透したあだ名は残念王子。
純粋といえば聞こえがいいが、少しばかり度の過ぎるガキっぽさ。
思い込みで突っ走ってしまう猪突猛進っぷり。
授業中、自分の大好きな歴史漫画のキャラクターと実際の人物の相違点の話から、そのままその漫画の醍醐味を時間いっぱい嬉々として熱く語ってしまった日など、生徒達はぽかんとし、ノートを取る手は止まるのだが、けれど結局は母親のような辛抱強さで、最後まで静かに話を聞いてやるのだった。
スマートな外見とあまりにもかけ離れたそんな残念っぷりを発揮する稲葉だが、生徒への愛情が伝わるゆえか、本人の心配をよそに、愛されキャラであった。
新しい影のニックネームもその好感度ゆえの産物だが、もちろん、本人は未だに知らない。
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