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常任講師は教諭とは違い、契約社員のようなものだった。
きちんと教諭になってしまえば将来的にも安心だし、交渉次第でその見込みがないわけではなかった。けれども稲葉はそれを躊躇っていた。
教諭になってしまえば時間の自由が利かなくなってしまう。
稲葉には定時である18時過ぎには学校を出て、向かわなければならない場所があったのだ。
今日もいつも通り18時半の電車に乗り、その場所へ向かう予定だった。
けれどどういう訳か呼び止められ、今稲葉の目の前には、名前も知らない可愛らしい二人の生徒が並び、頬を赤くしてこちらを見つめているのだ。
稲葉はそのシチュエーションにドキリとする。
―――これは、もしや。
しばらく忘れていた青っぽいサワサワとした気持ちが稲葉の中にポッとわき上がる。
「先生、あの……」
背の低い方のショートカットの女の子が恥ずかしそうに顔を上げると、もう一人の背の高い子は「がんばって」、とばかりに一歩後ろに下がった。
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