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けれど最悪なタイミングでそれは遮られることとなった。
「シロちゃーーーーん!」
女の子の語尾をかき消すほどの大きな声とその持ち主の体が、突如稲葉に激突してきたのだ。
一瞬、先週劇場で見たCGアニメの肌色触手生物が脳裏に蘇りシンクロした。稲葉の首にもっちりした瑞々しい白い腕が巻き付いて来たのだ。
正面にいる二人の女子生徒も目を見開いて固まっている。
稲葉のことを『シロちゃん』と犬のような愛称で呼ぶのはこの世でただ一人。そして、大胆なスキンシップを図ってくるのもこの人しかいない。
首に巻き付かれたからなのか、甘いコロンの香りのせいなのか、一瞬クラリとしながらも気力を振り絞り、稲葉は噛みつくように大声で言った。
「李々子さん! 何してんですか!」
振り返った先には少しも動じず、ニッコリと妖艶な笑みを浮かべている年上の女性がいた。
緩く巻いた栗色の髪。色白の瓜実顔にペルシャ猫のような大きく勝ち気な目。そして透け感漂うシフォンブラウスにショートパンツ。相変わらず露出度が高い。
彼女は卯月李々子36歳。
この後稲葉が向かおうとしていたのは、まさにこの李々子の勤めている探偵事務所だった。
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