設定温度

2/7
前へ
/7ページ
次へ
最後の授業が長引いたせいで、今日は少し家に着くのが遅くなってしまった。 慌てて電源をつけ、最初は暖まるまで時間がかかるので設定温度をマックスにする。 玄関のチャイムが鳴ったのは、それから約10分後のことだった。 「よっ、あったまってる?」 ドアを開けると、幼馴染の諒太はいつも通り、仕事帰りのサラリーマンの「ビール冷えてる?」風なテンションで聞いてきた。 初めの数回はツッコンでいたのだが、今ではもうすっかり飽きてしまって、「はいはい、あったまってるよ」と流すのみ。 しかしそんな私の塩対応も気にすることなく、諒太はまるで自宅かのように慣れた様子で我が家に上がり込むと、一直線に居間にある目的地へと急行する。 そして、無事いつもの場所へと辿り着くと、ため息まじりに呟いた。 「やっぱりいいよなあ、こたつ」 どうやら慌てて電源を付けた甲斐もあり、その旧型の機器は、ちゃんと暖まってくれていたらしい。 私もまた「もうおじさんくさいなあ」と文句を垂れながらも、いつもの場所へと戻る。 こたつを四角形で例えるなら、隣の『辺』だ。 毎年、私と諒太はこの位置で、春を待つ。 「そんなに好きなら、諒太もこたつ買って貰えばいいのに」     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加