設定温度

7/7
前へ
/7ページ
次へ
おばさんはそう言って笑ったが、私は驚いてしまってあまりうまく笑えなかった。 だって、諒太は家にこたつが無いから、こたつに入るために私の家に来ているはずなのだ。 「家にあるなら、どうしてわざわざうちに来るの?」 ストレートに尋ねた私から、諒太は目を逸らす。 そして訪れた、居た堪れないような沈黙。 それを破ったのは、真っ赤な顔をした諒太のいつもの百倍ぶっきらぼうな一言だった。 「お前んちのこたつのほうが、あったかいんだよ」 窓には冷たい北風が吹きつける。 天気予報では、今週末には今季初の雪も降ると言っていた。 寒さはこれからもますます厳しさを増すだろう。 それでも私は、冬に「少しでも長くここに居てね」と言いたい。 私がもう少し素直になれるまでは。 「諒太んちの設定温度が低いんじゃない」 照れ隠しで言った私の言葉に、諒太は「そういう意味じゃねえよ」と返した。 そのあとのこたつは、いつもと同じ設定温度のはずなのに、なんだかちょっぴり暑く感じた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加