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ついつい面白くなさそうな顔をしていると、直紀が何の前触れもなくバンと俺の背中を叩いた。
「痛っ」
「じゃあ、俺は大吉出たから帰るよ」
思わず声を上げた俺を軽く睨むと、勝手なルールに基づいてそう宣言する。
俺は、今度は「えっ」と声を上げてしまった。
「あ、そうなんだ。池原くんも?」
直紀の言葉を受け、西宮が俺にそう尋ねる。
立ち去りかけて足を止めた直紀からは、「分かってるよな」という視線を感じる。
「俺は……」
そう口を開いた時だった。
俺の視線に、大吉が一枚の出なかったおみくじの山が映った。
一番良くても、中吉が一枚。
そこにも、大して良いことは書かれていなかった。
ここのおみくじは、当たると有名だ。
そう思ったところで、ふと、開きかけて止まっていたくじのことを思い出した。
最後の望みをかけ、こっそりと開いてみる。
『凶』
「……俺も、帰ろうかな」
そう答えた瞬間、直紀の視線が鋭くなったのを感じた。
一方、西宮は小さく「そっか」と呟くと、笑って言った。
「じゃあ、また新学期にね」
「うん。また」
そう答えて、手を振る。
振袖で駆けていく、その向かう先に母親と妹の姿はなかった。
待っていてもらわなかったのだろうか。
もしかしたら初めから、俺たちと回ろうとか……。
「もうお前、おみくじでどうにかなるレベルじゃねえよ」
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