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俺は西宮の後を追った。
参拝客でごった返す境内をかき分け、必死でその姿を探す。
後から考えれば、携帯の番号は知っているので電話すればよかったのだが、そんなところに頭を回している余裕はなかった。
今こそ、気合と粘りの勝負だ。
似た振袖を見かけるたびに足を止め近づいて、探し人ではないことを確認すると、まだ捜索に戻る。
しかし、そんな探し方をする必要は無かったのかもしれない。
その人のことは、遠くからでも一目見ただけで分かった。
「西宮!!」
まだ家族と合流していなかったようで、一人で参拝の列に並ぼうとしていたところを呼びとめた。
「池原くん、どうしたの?」
息を切らしながら立ち止まった俺に、西宮はそう言いながら驚いた様子で駆け寄ってくる。
「俺もまだ参拝していなかったと思って」
呼吸を整えながらそう答えると、西宮は少し笑って「そんなに急がなくても、神様は逃げないよ」と言った。
その返しに、俺も笑う。
でも、そんなのは一瞬のことで、すぐに緊張が上回った。
そんな俺の背中を押したのは、結局何よりも、何度となく向けてくれた親友の激励だったと思う。
「西宮、俺も一緒にお参りしてもいい?」
その時、西宮の表情から笑顔が消えた。
代わりに、そこに現れるのは、その振袖と同じ色。
鮮やかな朱がよく似合う。
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