0人が本棚に入れています
本棚に追加
雪が積もる外はとても寒いのだろう。だが、今の自分には関係ない。外だけでなく、室内
にまで及ぶ冷たい床の感覚は、じき消える筈だ。そこに横たわる自分と隣に連れてきた
忠犬は、もう身動き一つしない。酷い世の中だった。自身達が一生懸命やってきた事は
何一つ報われず、叶うものもなかった。好いた女の子は身分の違いが邪魔をし、こちらから身を引くしかなかった。最後は濡れ衣を着せられ、住んでいた町さえも追い出された。
もう生きている事すら虚しい。意味のない事だ。せめて最後は、この世の見納めに…
“少年”は顔を上げた。何も残らなかった彼が唯一抱いた希望。自身が最も愛し、最後まで諦めない、諦めたくなかったモノ。その目標、羨望となる象徴“1枚の絵”がここにはある。この世の見納めにそれを見に来た。顔を上げる。少年の背丈と同じくらいの絵が
目の前で光り輝いている。
「ああ、なんて綺麗…」
なんて台詞を言いたい自分の気持ちとは裏腹に唐突な疑問が沸き起こった。
「光りすぎ?じゃない?」
絵が後光のような光を浴びていると思ったが、そうじゃない。絵そのものが光っている。
てか光り過ぎて絵柄が見えない。気が付けば、隣の忠犬も、あまりの事態に覚醒し、
あんぐり口を開けている。
やがて輝きが一層増した光の中から靴のようなものが見え、
迷彩(彼にはこの表現方法がわからなかった。)を見に纏った女性が耳障りな高笑いと共に現れた。
「ア~ハッハッハァッ!OK!侵入完了!作品内の世界観オールOK!
ファイナルチャプターの場面にジャァストフィットォォォ!!」
意味不明の言葉を叫びながら、こちらに近づいてくる女性。何だかわからないが、不気味な
恐怖を感じる。相手に気づかれないようにそーっと後ずさる少年の下顎に、女の靴が素早く差し込まれ、強制的に上を向かされる。見上げた先には、とんがり八重歯をたくさん見せ、
耳まで裂けそうな笑顔をこちらに向けてくる女性がいた。ガタガタ震える少年を他所に
解読不能の台詞が続く。
最初のコメントを投稿しよう!