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目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
汚い身なりのおじさん二人が、戸惑いながらそれぞれ相手を見ている。
それから10年。
同じ二人が、熱い缶コーヒーを片手に、寒い冬の夜、星空を眺めながら語り合っている。
しかしその姿は、10年前のようなくたびれた姿ではない。
時計やスーツなどがすべて高級品だ。
どうやらこの10年で、二人は大成功したようだ。
しかし、二人の会話は奇妙なものだった。
二人の身体が入れ替わって、それぞれの生活をおくったというのだという。
入れ替わった瞬間、お互い自分の身に起きたことに混乱した。
しかしすぐに決心した。
男たちは自殺をしに、このビルの屋上に来たのだから。
この、富と名誉を象徴するビルで自殺することがせめてもの抵抗だった。
そこで階段でもみ合った二人の身体が入れ替わったのだ。
二人は入れ違った人生を歩んだ。
ひとりは元船員、ヨシオ。
船乗りなのに、船酔いしてしまう体質だった。
体質に合わないのだが、やめられなかった。
ヨシオの父が船乗りで、父の期待に応えるためにその職業に就いたのだから。
父のことが嫌いだった。小さい頃からヨシオに暴力を振るう気性の荒い父だった。
そんな父に育てられたヨシオは、顔色ばかりを伺う気の弱い人間になった。
それまでのヨシオの人生では、気の弱い部分なんて役に立たなかったが、もう一人の男の身体を手に入れたことで、ヨシオの人生は大きく変化した。
もう一人の男の名前はマサオ。
マサオはヒモだった。女をソープに働かせた金で生活していた。
マサオは女の気持ちなんて理解できない、荒くれ者だった。
その二人の身体がチェンジした。
これがとてもうまくいったのだ。
女の顔色を見ることに長けたヨシオと腕っ節の強いマサオ。
しかし10年目の今日、二人の身体が元に戻ってしまう。
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