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 衝撃の初出勤から2日後、春日井と柳は、S市にあるコールセンターに車で向かっていた。9係専用の社用車は、一昔前の軽自動車で、今時珍しいマニュアル車だ。柳がクラッチを踏むたびに、キィキィと異音がするポンコツだ。高速道路を何とか時速80キロで走っているが、エンジン音が悲鳴のように聞こえ、春日井の不安は増すばかりだった。  お客様ヘルプデスクのコールセンターでセクハラが問題になっていると、9係に匿名のメールが届いたのがことの始まりだった。 「――いいか、春日井さん。9係の仕事は、会社で起こる人事上のあらゆるトラブルを解決することなんだ。セクハラ、パワハラはもちろん、コンプライアンス違反など、総勢5万人の社員を抱える企業では様々なトラブルが発生する。それらを放置すれば生産性が下がるだけでなく、訴訟やマスコミへの露見など、会社の信用失墜につながりかねない。これらトラブルが大ごとになる前に解決するのが、俺たちの仕事なのさ」  と、柳が説明していたのを春日井は思い出していた。9係の仕事内容は理解できたが、自分が思い描いていたおしゃれな仕事とはあまりにもかけ離れている。  いつか、「いやー、仕事がおもしろくて!」みたいなセリフが自然と言えるようなビジネスウーマンになりたいと思っていたが、そんなことは望むべくもない、なんて泥臭い仕事内容なのよ!
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