9/9
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
「ちょうど仙台支社に欠員が出ているらしい。来月付けで急きょ異動ということで、センター長と本社で調整することになった」 「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ! それって、お咎め無しってことですか? 懲戒処分は?」  案の定、春日井は不満を爆発させ、柳にくってかかった。柳は少し怯んだものの、冷静に話しを続ける。 「懲戒処分はないが、お咎め無しって訳じゃない。今後の人事評価においては、大きなペナルティを負うことにはなるだろうな」 「ペナルティって、……いや、そもそもちゃんと問いただしたんですか? セクハラ野郎を!」 「……」  そこで何で黙るのよ! 助手席からの猛烈な圧力に屈し、柳はやれやれといった様子で、 「……今回は本人にはセクハラで異動になったとは伝えないことにしたよ。あくまでも欠員補充ということで通すことにした」  ――何なのよそれ。想定外の結末に春日井はあっけにとられた。 「それじゃあ本人は、セクハラで異動になったとは知らない訳ですよね? 何それ?」 「……言いたいことは分かるよ。だけどな、緑川さんはセクハラのことは言わないで欲しいって言ってたし、それ以外の証言にあったセクハラは、ちょっと弱いしな……」  ――理不尽。  柳には聞こえないように、小さくつぶやいてみた。社会に出れば、当たり前のことなのかも知れない。それでも、何度も自分に問いかけた。これがもっともベターな答えと言うのなら、自分たちの仕事に意味はあったのだろうか。やるせなさで、前を連なるテールランプの赤い光が、滲んで見えた。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!